東宝『エリザベート』中日公演
昨日は私にとっては丸一日『エリザベート』デーでした。
昼の部で山口トート&春野シシィ、夜の部でマテトート&瀬奈シシィを観てきたのです。
役替わりのある公演って同じ役でも演じる人によって全然イメージが違うので対比が面白くて好きです♪
でも1日のうちに2本観るのはやっぱりきついなぁ、エリザは公演時間が長いしね(笑)
実は、東宝版の『エリザベート』を観たのは初めてです。宝塚版のトートが主役のエリザしか観たことがなくて。
当然のことながら東宝版ではちゃんと主役はエリザベート(シシィ)になってて、皇妃エリザベートのエピソードがいっぱい盛り込まれていますね。私は東宝バージョンの方が分かりやすくて好きかな。
ヅカバージョンは確かにきれいだけど、私には何か物足りなさを感じていたのです。
さて、感想を書いていきましょうか。
昼の部と夜の部の役替わりを対比する形で、どちらが良いとか悪いとかではなく、私はそれぞれの表現の違いを楽しんで来ましたので、それを書いていきますね。
それぞれ上段に書いているのが昼の部のキャスト、下段に書いているのが夜の部のキャストです。
◆まずは主役のエリザベート(シシィ)役の春野寿美礼さんと瀬奈じゅんさん。
春野シシィは運動神経抜群のかわいらしいおてんば娘から美しい皇妃へと成長していく過程の表現が見事。全体的に上品なイメージで後半は狂気をも感じさせる役作り。歌声にもますます磨きがかかり、柔らかく耳に心地よかったです。
瀬奈シシィは気が強いおてんば娘から、大人へ成長した後もおてんば娘の要素を残すような役作り。パワフルなマテさんが相手役だからというのもあるかもしれませんが、シシィの強さとしたたかさを前面に押し出し、狂気はあまり感じませんでした。瀬奈さんの歌も春野さんの負けず劣らず、特に歌詞が聞き取りやすいのがいいですね。
◆お次はトート(死)役の山口祐一郎さんとマテ・カマラスさん。
山口トートは終始ささやくような歌い方で、静かにシシィに忍び寄って絡め取るようなイメージ。
不気味な存在感があるんですが、なんというか裕さんご自身のチャーミングさというかそれがたまに尻尾を出すようで、クスッと笑える瞬間があるんですよね。不気味だけど憎めないトート閣下という感じ( ´艸`)
でももし私があんな調子でささやかれたら、こそばゆくて「うひゃ~、やめて~」って相手をバシバシ叩いちゃうかも。だって、裕さんのささやくような歌を聞いてるだけで、すでにこそばゆかったもん(笑)
山口トートが『静』なら、マテトートは『動』ですね。
マテさんのトートはとてもパワフルに歌い踊り、シシィをこれでもかと攻め続け、追い詰めていく感じ。
以前、本場での『エリザベート』公演でトート役としてパワフルに激しく歌い踊るマテさんを動画で見たことがあるのですが、それを思うと今回は日本バージョンに合わせてマテさん本来のパワーは少し抑え気味にしてるのかな?それとも、日本語で伝えることに一生懸命でマテさんの持ち味を出し切れてないだけなのかなぁ?
それから、エリザベートの製作発表で日本語で歌っているマテさんを動画で観たんですが、その時よりも断然日本語の歌がうまくなってます。慣れもあるんでしょうが、やっぱり一生懸命勉強したり練習したりされたんでしょうね。セリフの方はまだ訛りが強いですが、短期間であそこまで日本語でスムーズに歌えるようになったのは素晴らしいことだと思います!
◆シシィの夫でオーストリア皇帝のフランツ・ヨーゼフ役、岡田浩暉さんと石川禅さん。
岡田さんのフランツは母親のゾフィーとシシィとの間で揺れる気持ちを細やかに観ている側にも分かりやすく表現されてます。結構、感情表現豊かですね。
年を取って老けた時(2隻のボートの場面)は「そこまで老けちゃうの?」というくらいヨロヨロして、進行役ルキーニに支えられてます。笑える場面じゃないんだけど、ちょっとクスッと笑っちゃいました(^◇^;)
石川さんのフランツはセリフにもある通り自分の感情は抑え、表にあまり出さない感じ。唯一感情的になるのは後半シシィがフランツの浮気を知って宮殿から出ていってしまって、母親のゾフィーに抗議する場面だけ。大きな感情表現はないけど、随所で嫁姑の間で思い悩む気持ちは伝わってきます。
年を取って老けて時も貫録十分でシャキッとしていて、いかにも皇帝らしいイメージですね。
◆フランツの母でオーストリア皇太后のゾフィー役、寿ひずるさんと杜けあきさん。
寿さんのゾフィーは、私的な部分は絶対表に出さず規律を重んじるいかにも帝国の実権を握る強い皇太后といった感じ。それゆえ後半でシシィに向かっている息子の心と政治的実権を取り戻そうと画策する場面とのギャップが面白いです。
杜さんのゾフィーは、表向きは厳しい皇太后だけど、どこかチャーミングで人間らしい印象。
自分の思い通りにならないシシィとの仲を引き裂き息子の心を自分に向けさせるために娼婦を送り込む愚かな行動も納得できてしまう。
私の中では寿さんのゾフィーは『陰』、杜さんのゾフィーは『陽』のイメージかな。
◆シシィとフランツの息子で皇太子のルドルフ役、古川雄大くん(少年時代:鈴木知憲くん)と平方元基くん(少年時代:加藤清史郎くん)。
古川くんのルドルフは、品がよく、とても繊細な心を持つ青年。
両親から拒絶されることを恐れているような感じで、フランツに自分の意見を否定された時点で絶望感を漂わせています。それでもなんとか自分の意志を貫こうとエルマーたちと共に行動を起すも失敗に終わり、父親にも拒絶されたと感じて、シシィに泣きつくルドルフは哀れなくらい怯えています。護ってあげたくなっちゃいます。
ルドルフが死へ向かう心境がすごく分かりやすく表現されていて納得できますね。
平方くんのルドルフは、母親譲りの意志の強さと情熱を秘め、父親ともなんとか対等に話をしようと試みる青年。
でもその意志の強さゆえに挫折した時のルドルフの心はもろく崩れ去り、破滅へと向かっていく感じです。
ルドルフにとって最後の砦であるシシィに助けを求めに行く時もまだ希望を捨ててはいない感じですが、母親に拒絶されて八方ふさがりになった瞬間に心が壊れてしまう。
少年ルドルフ役の知憲くんと清史郎くんの役作りもそれぞれの青年ルドルフのイメージとぴったり一致していて、すごいと思いました。青年ルドと子ルド、どちらがイメージを合わせてるんでしょう?
知憲くんのルドルフはちょっと気弱で寂しがり屋の男の子。清史郎くんのルドルフは気弱ながらもちゃんと自分の意志を持っている男の子という感じでした。
役替わりがあったのはこれくらいかな。
この作品はハプスブルク家の滅亡を描いているはずなのに、悲壮感があまりなく、観た後「あ~、面白かった」って思って帰れるのは、やっぱりルキーニ役の高島政弘さんの絶妙な語り口のおかげかな。ルキーニ役が初演から変わっていないわけが分かった気がします。これだけできる人は他になかなかいないんじゃないかなぁ。
結構したたかなシシィの母ルトヴィカとか、革命に情熱を注ぐエルマーとか、迫力満点のマダム・ヴォルフとか、黒子の役割も兼ねつつトートの意志をダンスで表現するトートダンサーの皆さんとか、他のキャストの方々も皆それぞれ個性を発揮していて、素晴らしいカンパニーだと思いました。
今回は石丸幹二さんのトートや大野拓朗くんのルドルフが観られなくて残念。後は役替わりの別の組み合わせとか、お金さえあればもっと観たいんだけどなぁ・・・