「レディ・ベス」名古屋公演
今日は、「レディ・ベス」を観てきました。
エリザベス1世が不遇な少女時代を乗り越えイギリス女王になるまでを、フィクションも交えて描いた作品。
なんとこの作品は、世界に先駆けて今回初めて日本で上演されたのだそうです。
世界初となるこの作品を観ることができて、なんだかちょっと感慨深いです。
この作品は、傾斜の角度や向きが変わる円形の大きな舞台装置とタカラヅカ以外では見たことがないような豪華な衣装が目を引きます。
役者さんたちは、重そうな衣裳を着て、場面によって傾斜の角度や向きが変化していく円形舞台の上を動き回ったり、乗ったり下りたりするわけですから、すんごく大変じゃないかと(^^;
でも観ている分には、円形舞台が動くことで場面の切り替わりをスムーズにしたり、キャストたちがどういう場所にいるのか創造力を掻き立てられたりして、とても面白い演出だと思います。
今日の役替わりキャストは、ベス役・平野綾さん、ロビン役・加藤和樹くん、メアリー役・吉沢梨絵さん、フェリペ役・平方元基くん、アスカム役、石丸幹二さんでした。
レディ・ベスを演じた綾ちゃんは、可憐でかわいらしい雰囲気の中にも芯の強さを感じさせる役作り。1幕では男装してロビンと屋敷を抜け出し街に繰り出す時のコミカルな場面もあり、これがまた、なんともかわいらしい!ロビンが惚れるのも分かるわぁ~(笑)
でも、それが反逆罪の濡れ衣を着せられて捕えられ、処刑を待つ受刑者が入れられるロンドン塔に幽閉されてから雰囲気が変わって行きます。不貞の罪で処刑された母親のアン・ブーリンが本当は濡れ衣だったことに気づき、自分もまた同じ運命をたどるのかと嘆き、生きたいと願う姿は胸を締め付けます。
2幕では、一人の女性として幸せになることをよりも、民衆を幸せに導く覚悟を決め、愛するロビンと別れ、イギリス女王の座に就く。女王になった時の強い意志を秘めた力強い眼差しが印象的でした。
作品の中で唯一、実在しないキャラクターの吟遊詩人ロビン・ブレイクを演じた加藤くん。
かわいらしいベスを包み込むように見守る瞳がとても柔らかく優しいです。
ロビンは、それまで自由に生きていたはずなのに、ベスに出会ってからは完全にベスの魅力に取りつかれて心が自由ではなくなってしまっているんですよね。
ベスが捕えられ幽閉されてからは酒浸りになり、最初の頃の飄々として明るいロビンはどこへやら。その後、ベスと再会して愛を確かめ合って幸せに浸るも、状況は一変してベスが女王となることに。女王になる決意を固めたベスに最初は絶望し落ち込むロビンだけど、遠くから見守ろう決心をする。その微妙な表情の変化を丁寧に表現して見せてくれました。
ベスの腹違いの姉メアリー・チューダーを演じる吉澤さん。
世継ぎの男子を求める父親のヘンリー8世から、女として生まれてきたというだけで不当な扱いを受けてきたメアリーは女王になったものの、民衆からは自分に背くものは捕えて処刑するブラッディ・メアリーと批判され、民衆に人気のあるベスの存在を恐れ疎んじながらも、どこか自分と通じる部分があると感じているような雰囲気。側近のガーデナーから、ベスを処刑した方がいいと、進言された時の一瞬の迷うような表情からそれを感じました。
若いスペイン王子フェリペとの結婚の場面では、表向きは強い女王として毅然と振る舞っているけど、本当はそうじゃないんだというのがよく伝わってきます。
これらのことから、今までベスに冷たい態度をとってきたメアリーが、病に侵され自分に死期が迫っていることを悟ってベスと和解する場面に納得がいきます。
父のスペイン国王からメアリーと結婚するよう命令されイギリスにやってくるフェリペ王子を演じる平方くん。1幕で飄々と明るく登場したロビン以上に、飄々と登場します。
好き放題して遊びまわっているドラ息子のようでいて、実はしっかり人を観察している侮れない若者という感じ。そしてスペインの南国生まれらしい明るさもよく出ています。
フェリペもまたベスに惚れて、メアリーとの結婚が破断した後にベスを口説くもフラれて、潔くイギリスを去っていくのがかっこいい。
この作品は、ストーリーの重さをロビンとフェリペの存在で軽くしているのかな?と思います。
最初のうちはロビンたちが場を盛り上げ、ロビンが本来の明るさを失った辺りから、フェリペが登場してまた違った雰囲気で重い場面の空気を換えていくように感じました。
ベスの母、アン・ブーリンを演じる和音美桜さん。
最初の処刑の場面以降は、ずっと亡霊として出てきます。
最初のうちはベスを悩ませる存在として首切り職人と一緒に出てきますが、それは最初のうちベスが誤解していて母親を憎んでいたからであって、アン自身は亡霊として出てくるものの最初からずっとベスをやさしく見守り、まるでベスの守護神のような存在となっています。
娘に誤解されていても大きな愛でベスを包み優しく見守り続ける姿から、ベスの中でどれだけ母親の存在が大きかったかが表現されているのかなと思います。
ベスの家庭教師ロジャー・アスカムを演じる石丸幹二さん。
とても落ち着いた雰囲気で、様々な学問に通じている賢者といった風情。
父親のように温かくベスを見守る包容力を感じます。
また、占星術によってベスの未来を見通し、役目を終えてからもアスカムの教えと約束がベスを導いていくというこの作品のストーリーの要となる役でもあります。
ベスの乳母のような存在のキャット・アシュリーを演じる涼風真世さん。
アスカムと共にベスの成長を見守ってきた存在です。
ベスをわが主君として敬い、支え、時には教育係として厳しく、時に母親のように大きく包み込むような愛情を感じました。
メアリー・チューダーの側近であるガーデナーを演じる石川禅さん。
ベスを捕えてロンドン塔に閉じ込め処刑しようとする、ベスとっては天敵。
悪役なんですが、コミカルな場面もあり、会場からはちょこちょこ笑いが起こります。石川さんが演じるとなんだか憎めないんですよね。この役をとても楽しんでらっしゃるのが伝わってきます。
フェリペの側近シモン・ルナール役の吉野圭吾さん。
本心がどこにあるのか分からないような少々不気味な雰囲気がありつつ、シモンの気も知らずに好き放題に楽しむフェリペに振り回され、苦労しているような姿がユーモラスです。
フェリペとメアリーと結婚が決まってから、イギリスで内乱が起きないようにガーデナーと手を組んで反乱の火種となりかねないベスを亡き者にしようと企むが、あくまでもスペインのため、フェリペのためであって、メアリーとフェリペの結婚が破断し、ガーデナーの死後は、ベスのことなどどうでもいいような態度に変わります。
この作品は、まともに描いたらものすごく重い話なのですが、実在しないロビンを登場させたり、悪役を少しユーモラスに描くことで重苦しくならず、見ごたえのある作品に仕上がっているんじゃないかと思います。
今回は1回しか観ることができませんでしたが、ぜひまた観たいです!