ブックレビュー:小説「レ・ミゼラブル」
今年の1月から読み始めた「レ・ミゼラブル」の完全版。
途中で何度も挫折しながら4か月ちょっとかかって、やっと読み終えました!
私が読んだのは青空文庫で見つけた古い翻訳本なので、使われている言葉が古くて分かりづらかったり、しょっちゅう話がそれてなかなか本編に戻ってくれなかったりで、つい途中で飽きて投げ出しちゃうんですよね。それで、しばらくしてまた思い出したように読みだすという繰り返し(笑)
それでも完読できたのは、現在上演中のミュージカルの内容と比べながら、読んでいるうちに疑問に思っていた部分の謎が解けていったり、ミュージカルと原作の違いを楽しむことができたからかな。
ミュージカルは、上演時間内に収めるために長編小説を無理やり短縮してるから、原作と違うのは当たり前だし、その歪みからツッコミどころが出てくるのも仕方がないですね。
主人公ジャンバル・ジャンのエピソードは大体そのままですが、他の設定とかは話の流れとかはかなり違います。
原作では、ファンテーヌが働いていたマドレーヌさん(=ジャン・バルジャン)の工場では、職場が男女で完全に分けられている設定で、ミュージカルに登場するスケベ工場長は出てきません。ファンテーヌは今でいうお局様の新人いびりがエスカレートして、最終的に新人のファンテーヌが追い出されたような内容になっています。
私は、職場が男女で分けられていたというエピソードで、マドレーヌさんが従業員たちのためにきめ細かな配慮をしていたことが感じられて、原作の方が好きですね。マドレーヌさんが男女間のトラブルを避けるために職場を分けていたことも小説の中に明記されてますし。
あと、原作を読んで初めてエポニーヌとアゼルマ、ガブローシュが姉弟だということ分かって、ちょっとびっくり。
マダム・テナルディエはエポニーヌとアゼルマのことはかわいがっていたけど、ガブローシュのことは疎んでほとんど存在を無視していたため、ガブローシュは物心ついた頃から家族から離れて浮浪児となり一人で生きていたんですね。
ミュージカルではなぜかガブローシュがグランテールになついていることになっていますが、原作ではこの二人は何の接点もありません。ガブローシュは勝手にアンジョルラスたちの隊列に紛れ込んで戦いに参加していたのです。
ミュージカルでは省かれているファンテーヌの死からコゼットを迎えに行くまでの間ジャン・バルジャンは一度ジャベールにつかまって、徒刑場に戻りガレー船に乗っていたんですね。ジャン・バルジャンはジャベールの面目もちゃんと保てるようにしているんです。そして、たまたまガレー船の帆から落ちそうになっている船員を助けたのをチャンスと見て自分は海に落ちて死んだと思わせて密かに逃げ出し、ファンテーヌとの約束を守るためにコゼットを迎えに行っています。
原作を読むと、司教様に出会ってからのジャン・バルジャンが本当に正直で健気で優しくて自分に厳しくて「もう、そこまでしなくていいよ・・・」って思っちゃいます。
マリウスとコゼットの恋がねぇ、お互い初めての恋で戸惑っている様子やおかしな行動、ちょっとした勘違いとか、すごくリアルに描かれていて、もぉ~キュンキュンしちゃいました(笑)
初恋の気持ちは今も昔も変わりませんねぇ♪ちなみにマリウスとコゼットが出会った時の年齢は、マリウスが20歳、コゼットが15歳くらい。
マリウスの父親は、ナポレオンがヨーロッパ連合軍に敗れた戦争で、ナポレオンの元で戦い死にかけているところを、死体から金目の物を盗むために来ていたテナルディエに偶然にも助けられる形となり、その後老いた父親はマリウスに「テナルディエを恩人として何かあった時は助けてやってくれ」と遺言を残して亡くなります。
テナルディエは助けるつもりはなかったけど、結果的にマリウスの父親の命を救うこととなり、ファンテーヌの娘コゼットを預かり、エポニーヌはマリウスに恋をし・・・ユゴーさんは、すごいつなげ方をしていくなぁ!
アンジョルラスは裕福な家の子息で、金髪で青い目のとても美しい青年として描かれています。さらに「大天使ミカエル」とか「革命の天使」とか、著者のユゴーさんはやたら天使に例えてアンジョルラスを美化している印象が(笑)
それだけの美貌を備えていながら、アンジョルラスは恋愛に興味を示さず、フランスを良き国にすることだけに情熱を注いでいます。
育ててくれた祖父に反発して家出したマリウスが、アンジョルラスの友人のクールフェラックに拾われ、アンジョルラスたちの秘密結社「ABCの友」に仲間入りしたのは17歳、この時アンジョルラスは23歳。彼らが革命のための行動を起こしたのはその3年後。
でも原作では、マリウスはこの秘密結社にはあまり参加せず、ひたすら勉強して弁護士の資格を取り、コゼットと出会ってからはコゼットのことしか考えておらず、革命には大して興味を示していないんですよね。
コゼットがイギリスに行ってしまう事を知った後は、絶望して死ぬことしか考えておらず、エポニーヌに呼ばれてアンジョルラスたちのいる砦へ向かったのも、ただ死に場所を求めてのこと。
それでもマリウスは、1回目の襲撃で軍隊が砦の中まで攻め込んだ時には、追いつめられたガブローシュやクールフェラックを救い、火薬の樽を砦にぶちまけて砦に登り「全員ひけ!火をつけるぞ!」と脅して軍隊を撃退し、砦内の仲間の尊敬を集め、アンジョルラスが「ここのリーダーはマリウスだ!」とまで言わしめます。
ミュージカルではマリウスは戦いの場面で目立っていないのですが、小説の戦いの場面ではマリウスはアンジョルラスと共に最前線で勇敢に戦って活躍しているんですよ。死ぬことを恐れない者の強さを感じさせます。
マリウスを救い出すために砦にやってきたジャン・バルジャンは、人を殺すことは望まず、戦いにはあまり参加していませんが、軍隊から総攻撃を受けて、砦が落ちる直前ついにマリウスが敵の銃弾に倒れた時、老人とは思えない俊敏さで駆けつけてマリウスの体を受け止め、そのまま担いで下水道へ逃げ込みます。
アンジョルラスは砦が落ちた時、その隣の居酒屋(ABCの友の集会所)の建物に生き残った仲間と立てこもり、武器がなくなって自分が最後の一人になるまで戦い続け、ついに大勢の兵士たちに取り囲まれて追いつめられた時、神々しいまでに堂々とした態度で「私が首謀者だ。さあ、打て!」と自分の胸を指し示し、兵士たちをひるませます。
とはいえ、兵士たちに取り囲まれ、いくつもの銃を突きつけられたら怖くないはずはありません。そこへ出てくるのが、アンジョルラスに憧れを抱き崇拝する大酒飲みのグランテール。
砦ができる前に店にあった一番強い酒を飲んでしまい、戦いの間ずっと何も知らずに寝り続けたグランデールが目をさまし、兵士に追い詰められ取り囲まれているアンジョルラスを見て、兵士たちをかき分けてアンジョルラスの隣に立ち「一緒に死ぬことを許してくれるか?」とアンジョルラスに許しを請い、アンジョルラスが笑顔でそれに応えた瞬間に一斉に銃声が響き渡ります。
壮絶なんですけど、アンジョルラスにとってはこの時グランテールの存在がどれだけ心強かっただろう、また、グランテールは自分が憧れ崇拝しているアンジョルラスと共に死ぬことができて幸せだったんじゃないか、と思いました。
おっと、これ以上内容について書くのはやめておきます。止まらなくなりそう(笑)
著者ヴィクトル・ユゴーはこの1832年の革命が失敗に終わった原因に、当時パリでは内乱が頻発していたため、平和を望む中流階級の市民たちがウンザリしていたこと、戦いによって家や道路が破壊されることを嫌がったこと、経済が停滞してしまうことなどを挙げています。要するに時期が悪かったんでしょうね。
その後、アンジョルラスたちが命懸けで蒔いた共和主義の種が育ち、1847年に再度パリで革命が起きて成功し実を結んだことも書かれています。
この小説は、著者が体験してきたことを元に書かれたものなので、登場人物たちは架空でも時代背景は事実に基づいてしっかり描かれていますね。
この小説は、登場人物の心理描写が事細かに書かれていて驚きました。ここまで細かい心の動きを描写している小説は初めて読んだ気がします。ユゴーさんは心理学者だったのかと思うほど見事。
途中で何度も挫折しながら読みましたけど、最終的に読み終えた感想は「結構面白かった」です。もう一度読み直したいとさえ思っています。なんだか不思議な感じ(笑)