「貴婦人の訪問」名古屋公演 観劇感想

2022年10月15日

今日は「貴婦人の訪問」を観に中日劇場へ。

うわさには聞いていたけど、集団心理の怖さがよく描かれた作品で、重いですねぇ…

そして、いろんな捉え方ができるという意味で面白いと思います。
1回観ただけでは、ちょっと理解できない部分もあったかな。

恋人に裏切られ、汚名を着せられて町を追い出された少女クレアが年を取り、世界的な大富豪となって復讐のために町に戻ってくるところから始まり、登場人物たちの心理状態がどんどん変わっていく様子は分かりやすく、観ているこちらも「あなただってこういう気持ちあるでしょ~?」と心をのぞかれているような感覚になります。
誰一人良い人は出てきません。

ここからはネタバレありです。

前半は、どちらかというと段々と追いつめられて疑心暗鬼になっていくアルフレッドの心理状態がメイン、後半は多額のお金に目がくらんで平常心を失っていく住民たちの集団心理がメイン。
市長、警官、住民たち、さらには夫の本音(?)を知った妻までが自分たちの罪を一人の人間にかぶせてしまう集団心理の恐ろしさ。
ある意味ホラーですね。現実にあり得ることだけに余計恐ろしいです。

多額の財政援助が受けられると知った住民たちが急に贅沢をし始めた場面から、だんだん衣裳が変わっていきます。
最終的には住民たち全員が、それぞれ変なデザインの衣装に。
これは狂気の集団心理に巻き込まれていっていることを表しているんじゃないかな。
あの変なデザインは、冷静さを失った人たちを象徴してるような気がしたんです。皆おかしいぞって。

今日は後ろの方の席でオペラグラスなしで観ていたので、細かいところまでは分かりませんでしたが、メインキャスト中心に感想を書いてみたいと思います。

クレア役の涼風真世さんは、すごい存在感ですね~!歌にも迫力があります。
そして、冷酷な仮面の裏に孤独感と悲しみ、怒りと虚しさを繊細に表現する役作りはさすがです。

アルフレッドと思い出話をする場面の複雑な表情から揺らぐ気持ちが伝わってきました。
あと、クレアは若い頃に足を傷めた設定で足を引きずっているのですが、涼風さんは暗転後も袖に入るまでちゃんと杖をついて足を引きずっていて、徹底した役作りに感心しました。

クレアは本当はアルフレッドの死を望んでいたわけではなく、自分を追い出したアルフレッドと街の住人達に大規模な仕返しを仕掛けただけのはずが・・・という印象の終わり方でしたね。

アルフレッド役の山口祐一郎さんは、最後まで謎の人物を好演というべきか怪演というべきか。
本当にアルフレッドの本心がどこにあるのか最後まで分かりませんでした(^^;
アルフレッドはクレアに相当ひどい仕打ちをしておきながら「一番愛していたのはクレアだ。一時も忘れたことがない」とか言って、一番の味方だった妻にまでそのことを宣言するし、矛盾点が多い。逆に言えば、いろんな捉え方ができる。
前半は、クレアから財政援助と引き換えにアルフレッドの死という条件を出されて、急激に周囲に対する疑心暗鬼になり、住民たちの一挙一動が全て自分を狙っているように見えてしまうという、アルフレッドからの視点で描かれていた気がします。
前半は、住民たちが知っていたのは援助が受けられるという事だけで、アルフレッドの命が条件だという事は一部の人間しか知らない設定で、市長たちにもまだ良心が残っていてクレアに交渉しに行ってますし。
なので山口アルフレッドは「皆、俺を殺そうとしているんだ~!」とか叫びまくっています。
祐さん、喉は大丈夫かしら?って心配になるほど(^^;

アルフレッドの妻マチルデ役の春野寿美礼さんは、最初のうちはおっとりとした楽天家で、癒し系のオーラを出していますが、後半からだんだん変わっていきます。
前半はオサさんのホワホワした感じがそのまま出ていて、かわいい奥さん♪後半は、だんだん夫を信じられなくなって変わっていく様子が不気味。笑顔の時も何かを押し隠しているようなオーラがね・・・
最後にアルフレッドから「一度も愛したことはない」と言われて、ついにマチルデも変な衣装の仲間入り。
でも、マチルデの場合はお金のためじゃなくて、夫への怒りと悲しみからですよね。
それにしてもマチルデのあの最後の変な衣装は、メッチャ歩きにくそうだったな(笑)

市長のマティアス役の今井清隆さんは、あまり誠実とは言い難いずるがしこさと図太さを感じさせる役作り。
市長は、最初は友人でもあるアルフレッドの死を望むなんて!と激怒するものの、結構早い段階からお金の方に気持ちが傾いていくんですよね(^^;
白々しさがにじみ出る物言いの中に不気味さがにじみ出ていいですね~。

校長のクラウス役の石川禅さん。少々気弱ながら、最後まで誠実に道徳を守りたいと集団心理に抗う人物を好演。
登場人物の中では一番まともな役なんだけど、それだけでは終わらせないのが禅さん。クレアのボディーガードにいちいちビビりまくってるのが、なんだかおかしい(笑)
真面目で誠実であろうとするがゆえに、クレアからあることを知らされてからは完全に絶望して心のバランスを崩し、酒におぼれて、集団心理に巻き込まれていく・・・真面目な人ほどポッキリ折れやすいんですよね。
信念を貫こうとする人の強さと脆さをうまく表現されていたと思います。

アルフレッドの親友で警察署長のゲルハルト役の今拓哉さんは、お金と保身のために親友を裏切るゲルハルトを飄々と演じています。市長の上を行くずるがしこさ。怖いですね~(><)
登場人物の中ではゲルハルトが一番残酷かも・・・まあ、観たら分かります。

牧師のヨハネス役の中山昇さんは、あまり信心深くない牧師さんで、いつもテキトーにお祈りを済ませてそうな感じ(笑)
自分の意見ははぐらかして、本心を言わない不気味さがあります。

アンサンブルも芸達者が揃っていて、それぞれにいい味出してました。
細かい心理描写が求められる難しい作品だと思うのですが、観劇された方々が口々におっしゃっていたのですが、私も本当にこの素晴らしいメンバーが集まったカンパニーだからこそ成り立っていると思います。

かなり重い内容なので、気持ちが沈んでるときは観たくないですが、噛めば噛むほど味が出るというかクセになる作品かもしれないですね。
再演が決まっているようですので、気が向いたらまた観に行きたいと思います。
内容が内容だけに絶対観に行きたいと言えないところが・・・(^^;