「サンセット大通り」名古屋公演

2022年10月15日

今日は「サンセット大通り」を観てきました。
大学の試験が近いというのに、勉強しろって感じですけど(^^;

さて、感想ですが、映画版は観たことがないし、作品の内容はほとんど知らないまま観たので、ちょっと最初の方はよく分からない部分もありましたが、ぐいぐいと作品の世界に引き込まれて行きました。

過去の栄光にすがりつき、精神を病んで屋敷に閉じこもっている元映画女優のノーマの閉鎖的な世界と外の現実社会との対比でこの作品のヒロインであるノーマの心の闇が際立つ作品となっています。
最初に結果が分かっていて、どうしてそんなことになったのかを紐解いていくサスペンス風のストーリー展開なんですけど、時前情報なしで初めて観た私でも早い段階から全体像の予想がつくような、大人にとっては分かりやすい内容だと思います。

それから、ストーリーも時代設定も全然違うのに、なぜか作品の世界観が「ファントム」に似ていると感じました。
共に孤独と虚無の中で生きる人間が主人公だからかな?

ここからはメインキャストの方々の感想を書いていこうと思います。(ネタバレ注意)

さて、無声映画時代の大女優で過去の栄光にすがりつく50代のノーマ・デズモンドを演じる安蘭けいさん。
狂気をはらんだ鬼気迫る演技が怖いくらいですが、その中にノーマの悲しみとやるせなさ、そして押しつぶされそうなくらいの孤独を感じさせます。
過去の栄光を歌い、もう一度映画界へ復帰したいと夢見ながら、精神を病み、孤独感を募らせるノーマの歌声があまりに美しく、それゆえ過去の栄光やジョーにすがりつくノーマが余計に哀れに見えてきて、ノーマを見捨てることができなくなるジョーにも共感します。

売れない脚本家のジョー・ギリスを演じる平方元基くん。
一生懸命に自分の書いた脚本を映画会社に売り込むも断られ続けて、半ば投げやりになっているジョーは借金取りに追われてたまたま迷い込んだ屋敷に住んでいるノーマに脚本の手直しを依頼され、断りきれずに受けてしまったことでノーマの狂気の世界に引きずり込まれていく。
1幕ではジョーの中で危険信号が点滅しているのに最終的にノーマの言いなりになってしまう、はがゆさや苛立ちがよく伝わってきます。
そして、ノーマに迫られて一線を越えてしまい、ますます狂気の世界に引きずり込まれていく。
2幕では屋敷の外の世界から出て、かつての仲間と過ごしている時のジョーも、いつの間にかノーマと似た雰囲気をまとうようになっていて、抗いつつもノーマの世界から抜け出せなくなっている感じがよく出ていました。
ノーマの狂気の世界に絡め取られたジョーが、親友の婚約者であるベティの若くてキラキラしている部分に惹かれるのも必然かなと。そして、ノーマとベティの間で揺れるジョーの気持ちと自分の立場への苛立ちが伝わってきます。

ベティからの愛の告白に心が揺れ動くも、ノーマが自分を追い詰めただけでなくベティの心まで傷つけたことを知り、ついにジョーも屋敷を出る覚悟を決めるわけですけど、ジョーは最後に絶対言ってはいけないことを言ってしまうんですよね。
あれを言わなければジョーは殺されずに済んだかもしれないのに、銃を手にしているノーマに向かってわざわざ言ったのは「これ以上引き留めるならいっそ殺してくれ」という事なのかな?
銃を撃ったのはノーマだけど、現役復帰の妄想にすがることでなんとか生きている彼女に現実を突きつけたことでジョーが自ら引き金を引いたも同然ですからねぇ。

ノーマの執事マックスを演じる鈴木綜馬さんは、最初は本音を全く表に出さない不気味さを感じましたが、そのうち全てはノーマを愛するが故の行動だと分かってくると、不気味というよりはノーマと同じ悲しみと孤独が胸に突き刺さってくるようでした。
異常なほどの献身。元夫という立場でありながら、ノーマのためになるならばと他の男をあてがい、現役復帰の妄想を叶えてやろうと奔走する。こちらも狂気的です。

安蘭けいさんと鈴木綜馬さんのお二人が作り出すノーマ屋敷の場面が本当に息が詰まるような緊張感と鬼気迫る雰囲気が本当にすごくて感心しました。なので屋敷の外の場面になるとホッと息をつけるような感じになります。

ジョーの親友アーティ・グリーンを演じる水田航生くん。
アーティとしての出番は少ないながら、ノーマ屋敷に引きずり込まれてだんだん変化していくジョーのことを心配しつつ、婚約者のベティがジョーと親しくすることにもやきもきする複雑な心境がよく伝わってきました。
だからといって決して暗くなることもなく、他の街の住人達と楽しそうにやっていて、クスッと笑えるところもあってとホッと息をつける場面になっています。

アーティの婚約者で若手脚本家のベティを演じる夢咲ねねちゃん。
東京公演では実力が発揮できていないような声が聞こえてきていましたが、私が観た時は本来のねねちゃんの力を出せていたように思います。シャキシャキとした物言いの若さあふれるベティがかわいらしいです。
このキラキラした生命力あふれるベティの存在がノーマにおぼれていくジョーにとって束の間の癒しとなり、ジョーはベティに惹かれて行ったんだと納得できる役作りだと思います。
ノーマが闇なら、ベティは光のイメージですね。

アンサンブルの皆さんも個性的で一人一人役がしっかり確立されていて、見ていて面白かったです♪

現代にも通じる社会のひずみを垣間見たような感じの作品でした。
幸せな気分になれるような内容ではないですが、終わった後「なんかすごいものを観た!」という達成感みたいなものがありましたね。うまく言えないけど。

カーテンコールで指揮者の塩田さんが紹介されて出てきたときに、平方くんが安蘭さんをエスコートするのを真似て、マックス役の鈴木さんが塩田さんをエスコートして笑いを誘ったり、最後のカーテンコールでは鈴木さんが安蘭さんの手にキスをして客席から歓声が上がったりと、鈴木さんが結構楽しんでましたよ(笑)